父親が死んで10ヶ月後、今度は母親が死にました。
元々心臓と肝臓が悪く、血圧が高い人でした。
医者はあと10日しか生きられない、と言いました。
「人工透析を始めれば1ヶ月くらい寿命が延びるかもしれないが
どうしても死は免れない、透析の手術をするかどうか?」
と聞かれました。
私は一人では決められなくて、親戚に電話をしました。でもそういう時に限って、親戚は誰も電話に出ませんでした。
母の死を目の前にして、私は混乱していました。
私は思いあまって母親に聞きました。
「お母さん、お母さん、そのままにしておくと、10日しか生きられない、
手術をすると1ヶ月生きられる。どうする? お母さん」
母親は冷静に事態を受け止めました。
「そう、わかった手術はしない」
私は医者に言いました「手術はしません」
母親は菩薩様のような人でした。自分が死んでいくというのに、看護婦さんの個別の休日を覚えていて
「昨日お休みだったのね。良く休めた?」
と、聞きました。私の中で母親は生きている時から菩薩でした。何があっても母親に言うと
「yumeちゃんは大丈夫、いい子だから」
と、答えてくれました。母親は私にとって菩薩でしたが、他人にとっても菩薩でした。おまけに女優さんみたいに美人でした。
私は毎晩、病院に行きました。でも死んでいく人の隣には寝られないのです。大きな負のエネルギーが私を包んで、たまらなく恐ろしくなるからです。
私は、病院の待合室の椅子の上で寝ました。いえ、正直に言うと寝られるわけがないのです。夜の病室を、私は彷徨って歩いていました。
毎晩、毎晩。そして昼間、家に帰り、多少の家事をすると、医者からもらった睡眠導入剤を飲んで少し寝ました。
母親が死んでいく10日の間、私はそうやって生きていました。