両親が死んでから、一年半ばかり、私はボーっとして生きていました。
本当にボーっとして生きていたのです。
ある日、私の住んでいるマンションの上階に新しい住民が入居してきました。
その住民が騒音を出す家族だったのです。
かかと落としの歩き方で、ドスドスと歩く足音
ドアを閉める音、ふすまを閉める音、絶えず聞こえます。
私は我慢できずに上階に「静かにして下さい」
と、言いに行きました。上階の人は恐縮して
「すみません、気をつけます」
と、行ってくれましたが、音はまったく静かにならず
連日鳴り響きました。
私は我慢できず再三注意に行きましたが
まったく状態は良くなりませんでした。
多分、上階の人は気を付けてはいたのでしょうが
根がガサツな人だったのでしょう。
私は音がすると、上階の天井をくるくるワイパーの柄でたたくようになりました。
しかし、そのような事をする自分に罪の意識があったのでしょう。
次第に恐怖感を覚えるようになりました。
ただひたすらに怖くて涙が出てくるのです。
統合失調症の前駆期である、とその頃は判らなかった。
怖い、怖い、怖い。
家にいるのが辛くなりました。
ただ無性に怖いと思う日々が続きました。
思えばこれが、統合失調症発症の症状だったのです。
